足し算は、誰でもできる。
「この機能も必要だ」「あの要素も入れよう」「もっと情報を追加しよう」
でも、引き算には勇気がいる。
削ることは、決断することだ。削ることは、責任を負うことだ。削ることは、誰かを失望させるかもしれない。
だから、私たちは削れない。
彫刻家の視点
ミケランジェロは、こう言った。
「彫刻は、もともと大理石の中にある。私はただ、余分なものを削り取っているだけだ。」
プロダクトも同じだ。本質は、もともとそこにある。私たちは、余分なものを削り取るだけでいい。
でも、何が「余分」で、何が「本質」なのか。それを見極めることが、最も難しい。
スティーブ・ジョブズの言葉
ジョブズは、こう言った。
「シンプルであることは、複雑であることよりも難しい。思考を明確にするために、懸命に働かなければならない。でも、最終的にはその価値がある。なぜなら、そこに到達すれば、山をも動かせるからだ。」
シンプルは、手抜きではない。深い思考の結果だ。
先日、あるスタートアップの相談を受けた。画面を見ると、機能がぎっしり詰まっている。メニューが5階層。設定項目が30以上。
「これ、全部使う人います?」
創業者は答えに窮した。
「ユーザーが欲しいと言ったんです」「競合が持っているんです」「あったら便利じゃないですか」
でも、誰も使っていなかった。
削る勇気がなかったから、誰にも使われないプロダクトができあがった。
なぜ、削れないのか
削れない理由は、シンプルだ。
削ることは、決断することだから。
「この機能は要らない」と言うことは、「この要求を拒否する」ということだ。
削ると、せっかく作ったものが無駄になる。削ると、誰かが不満を言うかもしれない。削ると、自分の判断が間違っていたと認めることになる。
だから、全部残す。その結果、複雑になる。
複雑さの誘惑
なぜ、私たちは複雑にしてしまうのか?
選択を避けたい。 すべてを残せば、誰も傷つけない。すべてを残せば、誰もが満足する(はずだ)。でも、それは間違いだ。すべてを残すと、誰も満足しない。
賢く見せたい。 複雑なものは、賢く見える。たくさんの機能があると、価値があるように見える。でも、賢さは複雑さではない。賢さは、明確さだ。
決断を避けたい。 削ることは、決断することだ。「これは要らない」と言うことだ。決断は、怖い。だから、全部残す。
削る技術
では、どうやって削るのか?
「なぜ?」を5回繰り返す
「なぜこの機能が必要なのか?」
「なぜそれが重要なのか?」
「なぜそれがないと困るのか?」
5回繰り返すと、本質が見える。本質でないものは、削れる。
ゼロベースで考える
「もしゼロから作るなら、これを入れるか?」
この質問に、Noなら削れ。
過去の判断に縛られるな。今、ゼロから作るとしたら、本当に必要か?
半分にしてみる
機能を半分にしてみろ。文章を半分にしてみろ。要素を半分にしてみろ。
それでも成り立つなら、半分で十分だ。
もう削れないと思ってから、さらに削れ。
一番嫌われる選択をする
本質に到達するには、誰かを失望させる必要がある。
「この機能がないと使わない」という人がいる。でも、それでいい。
すべての人のためのプロダクトは、誰のためのプロダクトでもない。
Appleは、削る天才だ
Appleの製品を見てほしい。
iPhoneが出た時、物理キーボードはなかった。「キーボードがないと使えない」という人は多かった。でも、Appleは削った。
iPadが出た時、USBポートはなかった。「USBがないと不便だ」という人は多かった。でも、Appleは削った。
AirPodsが出た時、ケーブルはなかった。「無くすに決まってる」という人は多かった。でも、Appleは削った。
結果、どうなったか?誰も困らなかった。
なぜなら、本質を押さえていたから。
Googleは、削り続けている
Google検索のホームページを見てほしい。
検索ボックスが1つ。それだけ。他に何もない。
「もっと情報を表示したら?」「おすすめを出したら?」「広告を増やしたら?」
そんな誘惑があったはずだ。でも、Googleは削り続けた。
その結果、世界で最も使われる検索エンジンになった。
削った後に残るもの
削って、削って、削り続けると、最後に残るものがある。
それが、本質だ。
Googleは、検索ボックスだけ残した。
Twitterは、140文字だけ残した(当時)。
Instagramは、写真だけ残した。
削った後に残ったものが、最も強い武器になった。
削る勇気を持つ方法
1. 本質を一文で言えるか
「このプロダクトは、何のために存在するのか?」
一文で答えられるか?答えられないなら、本質がブレている。本質が定まれば、それ以外は全部削れる。
2. 「あったら便利」を全部捨てる
「必須」と「あったら便利」を分ける。そして、「あったら便利」は全部捨てる。
ユーザーは「便利」を求めていない。ユーザーは「シンプルで確実に動くもの」を求めている。
3. 誰かを失望させることを恐れない
全員を満足させようとすると、誰も満足しない。
誰かを選び、誰かを諦める。それが、削る勇気だ。
削ることは、贅沢ではない
「削る余裕なんてない」
そう言う人がいる。でも、それは逆だ。
削らないから、余裕がないんだ。
削るから、優先順位がつけられる。削るから、本質に集中できる。削るから、速く動ける。
削ることは、贅沢ではない。削ることは、戦略だ。
足し算は簡単だ。引き算は難しい。
でも、引き算こそが、本質への道だ。
削る勇気を持とう。余分なものを削り取ろう。そして、本当に大事なものを、際立たせよう。
「これは、本当に必要か?」
「これを削ったら、何が残るか?」
「削る勇気を、持てるか?」
シンプルは、削った先にある。